第1話 ロスに住みはじめた頃

アメリカに来て間も無い頃、仲の良い女性の友達とちょっと広めのアパートに暮らしていました。
彼女のボーイフレンドは僕の友達だったし、そのボーイフレンドの双子の妹の旦那は僕の親友でもあったんです。
その写真家のルームメイトがNew Yorkに引っ越したので、僕一人で部屋を持て余していた頃です。

丁度そんな時、職場の同僚の友達が「日本からやって来たので、アパートが見つかるまで空いてる部屋を貸して欲しい」と言い出したんです。
引っ越したルームメイトの部屋は廊下の突き当たりの、日本で言うと6畳間位の部屋で、そこを彼女にしばらく貸す事にしました。

ある日、僕が仕事から帰って来ると、その女性が
「ねぇ、今日子供が遊びに来たよ・・・」と言うんです。
60ユニット程有るそのアパートには子供が結構多くて、いつもプールサイドで子供達の遊ぶ声がするので子供は別に珍しくは無いのですが、
ハロウィンの時以外は僕の家に訪ねて来た事などありませんでした。
「珍しいね・・・」と僕が言うと、彼女は
「ううん・・・。クロゼットの中から来たの・・・」と当たり前の事の様に言うんです。
不思議と僕もそれが当たり前の様な気がして、『クロゼットの中から来た』というのを普通に聞き流していました。

「私が昼寝をしてると、7歳位のお姉ちゃんと5歳位の弟の白人姉弟が、あそこの半分開いたクロゼットの中から恐る恐る私の方を見てるのよ」
「私が心の中で『怖がらなくても良いから出ていらっしゃい・・・』って言うと、二人ともパーッとクロゼットから飛び出して来て、弟は部屋の中を走り回って、お姉ちゃんの方は私の寝てるベッドの脇に腰掛けて一人で歌を歌ってたの・・・」
「それで?」僕が聞くと彼女は、
「その後、私もウトウト気持ち良くなって寝ちゃって、目が覚めたら二人とも居なくなってた」と言います。
「ふーん・・・」前にも何度かこんな事は有ったので、なんだか不思議と当たり前の事の様な気がしました。

数日して、
「今日も遊びに来たよ♪」と、その彼女は言います。
「今日はね、私が昼寝をしてるとそよそよと風が気持ち良くって・・・どこかの窓が開いてるんだなぁって思いながら寝てたの・・・」
「でも、その風が急に強くなって、掛けていた毛布がバサーッと舞い上がったのよ・・・」
「それで、これはきっと窓じゃなくってドアが開いてるのかも知れない。だとしたらちょっと不用心だなぁ・・・と思って、起きて玄関まで行ったけど、ドアどころか、窓さえどこも開いてなかったのよ・・・」
「きっとあの二人が、遊んで欲しくていたずらしたんだと思う・・・」
「この前も、アパートを捜しに行って帰って来て玄関のドアを開けた途端に、リビングルームで遊んでいた二人が慌ててパーッと奥の部屋に走って逃げていくのが見えて、そーっと奥の部屋に行って『隠れていなくても良いのよ・・・。遊んでいて良いのよ・・・』と声を掛けてみたけど、もう見えなくなってしまっていた事もあったし・・・」

そんな事が何度か有って、ある日駐車場で管理人夫婦とバッタリ会ったんです。
「ようジュン。元気かい?」と気の良い黒人の管理人夫婦はいつもの様に声を掛けて来て、しばらく間を置いてから言いづらそうに、
「最近、お前の所に友達が来てる?」と聞くんです。
「あぁ、もう10日位になるよ・・・自分のアパートを見つけるまでの仮住まいだから問題ないだろう?」と聞くと、
「うん、うん・・・契約上は何も問題は無いんだけど・・・」と言ってから
「もうちょっと、夜静かにしてもらえないかなぁ・・・」と言い出しました。

「????」思い当たる節は全くありません。
僕は酒を飲む訳じゃないし、同僚の友人とは言え女性だからそんなに夜遅くまで二人で話してる訳でも無いし、第一話し声なんてうるさくない筈・・・
「今までと変らない筈だぜ・・・。今までもうるさかった?」と聞くと、彼は言いづらそうに、
「いや、ここ1週間か10日位だね・・・」と言い
「先週の週末も朝の2時頃まで寝れなかったしね・・・」と、隣に立っているかみさんの顔を見ながら同意を求めます。

「先週末・・・?」
「俺は居なかったぜ・・・」と言うと、
「いや、足音なんだよ・・・」と言います。
「俺の歩き方はいままでとちっとも変って無いぜ・・・」と言うと、
ちょっと言いづらそうな顔をしながら、
「ウチも子供が居るからさぁ、あんまり言いたくないんだけど、その友達は子供がいるだろう?」
「子供達が夜中に走り回ってる足音がうるさくて寝れないんだ・・・」と言い出しました。

「子供の走りまわってる足音・・・?!」
「どの部屋からする?」
「駐車場に近い方の部屋?」と僕が聞くと、
彼はカミサンと顔を見合わせながら、
「うーん、奥の部屋からホールを抜けてリビングまで行って、また走って戻ってくるような・・・。夜中パタパタパタパタ走り回ってるぜ・・・。」と言います。
『そうか・・・みんな寝てしまったり、誰も居なくなると走りまわって遊んでるんだな・・・』
そう思いながら、管理人の黒人夫婦に最近の出来事を話してみました。
話した後に
「何か心当たりか、思い当たる事って無い?」と聞いて見たけれど、黒人夫婦は顔を青ざめて(?)お互いの顔を見るだけで、
「何も知らないぜ・・・」と怯えています。
彼らは確かに何も知らない様でした。

そして、数日して居候女史は無事にアパートを見つけ、いつのまにか子供達も居なくなったようです。
(僕には結局一度も見えなかったし聞こえなかったから、居なくなったのかどうかは定かでは無いのですが・・・)

このアパートに関しての話は他にいくつか有るし、実は数年後に、偶然この2人の姉弟に関しての事実を聞く事になって自分でもとても驚いたのですが、きっと夜中に一人でこれを読んでる人も居るだろうから、この後日談はまた後にしますね。

 

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