第13話 もう一人の僕(前編)

ある日、僕はオートバイに乗って出かけて、たまたま通りかかった喫茶店の外装の木目に目を引かれて、そのやさしさと粋と落ち着きが感じられるデザインがなんとなく気にいって入ることにした。実は僕はバイクに乗るのはその頃久しぶりだった。

奥のテーブルに付こうとカウンターの前を抜けた時に「純」と誰かに呼ばれた様な気がしたけど、初めて入った喫茶店で知ってる人がいる筈は無いと思ったのでそのまま店の奥のテーブルについた。
ウエイトレスが注文を取りにくる前に、7年前に付き合っていた昔の彼女が僕のテーブルの脇に立っていた。

「おい、おい・・・久しぶりじゃないかよぉ・・・」
「変わんないわねぇ・・・すぐわかったわよ」
「いや俺、バイクに乗るのもこの皮ジャン着るのも久しぶりなんだけどなぁ・・しかもこの店は初めて・・・」
「私もこの店は初めて・・・」
「所で、田村君(彼女の旦那)は元気?」
「ウチ、別れたのよ・・・順子ちゃんは?」
「ウチもね・・・・。だから最近またバイクに乗り始めた・・・」
「じゃぁ、愛(彼女の娘)は?」
「私が育ててる・・・しかもその下にもう一人居るから女3人・・・」
「Love(愛)は、もう小学校だよ・・・」
「おい、おい、ウソだろう・・・」
そんな会話がしばらく続いて、それから、僕は時々彼女の家に泊まるようになった(その辺の経過は深く詮索しないように・・・)。

ある朝、彼女が「昨日ね、寝てる時に足元に誰か立ってた・・・」と言う。
「ちょっと待てよ・・。何だよそれ?」と聞くと
「細くて背の高い(165cm位)、髪の長い女性がジーンズとグリーンのTシャツで立ってて・・・」
『こんな夜中に他人の家の寝室に立ってるなんて、この人誰だろう・・・?』と思って見てたら、ちょっと手招きをするようなしぐさをしたので『どう言う事かなぁ?』と考えていたら頭の上の方でピカッ、ピカッ、とフラッシュみたいな光が3回光ってその人は居なくなった・・・。と彼女が言う。
「背格好とか、フラッシュが光ったのとかで、純のお姉さん(プロのフォトグラファー)かと思った・・・」
「俺の姉貴は髪は長くないし、大体どうして姉貴がそんな夜中に寝室で立ってるんだよ・・・」
「まぁ、言われてみれば確かにそうね・・・」
と、その日はそれで終わった・・・(終わるなって?・・・苦笑)

別な日、「純、トイレでタバコを吸わないでね」と彼女が言う。
トイレでタバコを吸った覚えは無いけど、吸わなかった確信も無いからとりあえず承諾しておいた。

7歳と3歳の子供達は2人揃って子供部屋で寝ているのだけど、上の子(愛)はとにかく俺になついていた。
その子は、とても人見知りのする子で、大人を斜めに見る(警戒する目で見る)子だった・・・。
それに比べて、下の子(ひろみ)は大人に甘えるのがとにかく上手い子で、どうすれば大人にかわいがってもらえるのかを良く知ってる子だった。
俺は、ひろみが「抱っこぉ・・・」と甘える時は、必ず愛も抱いて上げた。
愛は絶対に大人に甘えないけれど、心の中ではそうやって大人につけいる術を持っているひろみをうらやましがっているのを感じていたから・・・。
ある日、友人達とマージャンをしていて、僕から1m位離れた所に座っていた愛が、見る度に少しずつ座ってる位置が僕に近づいて来ているのに気が付いた。
気が付かないフリをしてると、いつのまにかピッタリ隣に座っていた。 そして、僕がリーチを宣言して上体を後ろにそらした途端にスルッと僕のあぐらをかいたひざの間に座って、緊張しながらすましている愛を見て、この子がむしょうにかわいく感じてしまった。

まぁ、とにかく・・・。
ある夜、午前2時頃、なんとなく目が覚めると僕の顔の上で愛が下を向いて僕を覗き込んでる。
「どうした?」と聞くと、
「眠れない・・」と言うので、
「じゃ、ここで寝るか?」と布団をはぐると
「うん!」と言って飛び込んでくる。子供達は僕が寝かしつけていた。
いつも子供部屋で一緒に布団に入って、お話をしたりお話を聞いてやったりしてる内に彼女達は寝てしまう。
最後までお話を聞かずに寝てしまうくせに、寝る前には必ず僕が子供部屋で一緒に寝ないと寝てくれなかった。

次の日、又2時に目が覚めた。また、愛が布団の横で座って僕の顔を見てる。
その次の日は愛とひろみと2人が座って僕の顔をじっと見ていた。 その夜も午前2時だった・・・。

彼女(母親)に、「こいつらいつも夜中の2時にこうやって起きてくるのか?」と聞いたら、
「純に甘えてるんじゃないの?」と言われて、
「そうか・・・」と納得してしまったけど、良く考えると、寝る前に一緒に寝てくれと甘えるのは甘えてるんだろうけど、寝てしまってから夜中に起きてくるのは甘えてるのとはちょっと違う気もするが・・・・。

4日目位だと思う・・・。
また、愛が僕の横に座って僕を見ていた。
「また寝れないのか?」と聞くと
「うん・・うるさくて寝れない・・・」と愛が言う。
「うるさいって、何が?」と聞くと、
「だって、Love達の部屋に知らないおじさんが居て、灰皿をちょうだいってうるさいんだもん・・・・」と寝ぼけた口調で彼女が言った。
「夢じゃないのか?」と聞くと
「ううん・・・。夢はちゃんと別なのを見た」とはっきり答える。
「 まだ居るのか?!」と聞いた僕の顔色が変わったのを察して
「夢だったかも知れない・・・Love寝る!」と僕の布団に飛び込んで来た。
その夜はそれ以上夜中に事を荒立てても仕方ないと僕もそのまま寝たけれど、次の日に子供部屋を掃除してみた。
子供部屋の愛の勉強机の下から、吸殻の入った灰皿を発見して、ちょっと顔が青ざめた・・・。

『そう言えば、いつだったかトイレでタバコを吸わないでくれと言ってたなぁ・・・』と思い出して、彼女にその時の事を聞いてみた。
彼女は、『トイレの「床」に吸殻が落ちているのを見つけて、僕がトイレで吸った煙草を床で消したのだと思った』と言う。
いくら何でもそんな事はしない。

本題の幽体離脱に入る前に、ちょっと長くなったのでここらで休憩・・・

 

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