第15話 除霊

僕と同じ位かそれ以下の年代のオートバイ好きな人なら恐らくかなりの人が知ってるであろう女性ライダー(ジャーナリスト?タレント・・じゃないなぁ彼女は・・・)が経営していた、東京の新宿に近いオートバイ屋さんでした。
余りにも忙しい彼女には店の管理はとても無理で、友人として見ていられなくて
「給料なんてどうでも良いからどうしてもやらせてくれ」と無理に店長をやらせてもらっていました。
だって、その店に来る客の殆どは、安いからでも無く便利だからでもなく、彼女の店だからわざわざみんな遠くからやって来てくれるのです。
少し位はまともに営業していないと・・・(苦笑)

前置きから書くとどうも長くなってしまうので、適当に状況説明を外してしまいますね。
どうも、従業員が変なのです・・・。
変と言うのは、どうも、おかしいのです(説明になっとらん・・・苦笑) ハッキリ書きましょう・・どう見ても精神的に異常としか思えない行動を取り始めるのです。
それも、普通の常識的な行動を取る社員だったに急に見る見る内にどんどんおかしくなるのです。
(見た目で一番普通じゃなかったのは僕だったかも知れない・・・苦笑)

「ちょっと疲れてるのかなぁ?」
そう思ってしばらく様子を見ていたのですが、無断欠勤や遅刻(半日遅刻)が殆ど毎日の様になり、結局退職してもらう事になりました。
ところが、彼がやめた後、今度は昨日まで普通だった他の従業員が昨日までの彼と同じ異常な行動を取り始めるのです。
異常と言うのはどう言う事だと言われても、これはなかなか説明しづらいです。
言葉だけでは伝わらない「異常さ」・・・それに「眼」です。
異常なんですよ・・・「眼」が・・・。
先週までの彼の「眼」と違うんです。
「目を合わせると背筋がぞーっと寒くなる眼」って判ります??
焦点がうつろで、かつ笑みを浮かべている相手と目が合った時のなんとも言えない背筋の硬直感・・・。

そして、2番目の異常被害者が辞めて行くと、次は3番目です。
3番目の彼は、最初に異常になった同僚を見ていて、1番目のMちゃんが辞めた後に昨日まで普通だったFちゃんが突然異常になったのを見ていて、
「頼むから、お前はああならないでくれよな・・・」と話していたのに、結局彼も他の2人の後を追いました。
つまり、店の中で「誰か一人だけ」順番で異常になるのです。

数週間して辞めて行ったF君がスーツを着て
「僕、あんまり良く覚えていなんですけど、なんだか辞める前の10日位ずいぶん迷惑をかけて辞めたみたいで・・・」と挨拶に来ました。
驚く事に、全く普通なのです。
(前より普通になったかも知れない・・・苦笑)
どうも、「疲れている」んじゃなくて「憑かれている」みたいなんです。
急に、しかも交代で誰か一人だけ・・・ですから・・・。
そして、辞めるとチャンと元に戻るんです・・・。

客から見ても「どうも何かがおかしい・・・」と言う事になり、
常連の客の一人が「お払いが出来る友人が居る」と言い出してその人にお願いする事にしました。

その日、まず経営者のRさんから目をつぶって両手を胸の前で合わせて座ります。
彼女の前に若い除霊師さんが座り、何やら唱えて、右手を顔の前にかかげます。
そうすると、目をつぶっているはずのRさんが顔をそむけるのです。
そむけた顔にまた手を当てなおすと(触れてはいません)、まるでその手が見えてるかの様にまた顔をそむけるのです。
そんな事が数分間繰り返され、次の従業員の番になりました。
次は異常者候補の従業員でしたが、やはり除霊師さんが手を当てると、どんどんのけぞって行くのです。

彼らに「どんな感じだった?」と聞くと
「見えている訳じゃないけど、目の前がなんだかまぶしくてその明かりから顔をそらした」とか
「息苦しくてついのけぞってしまった・・・」とか言います。
僕の番になって
『さて、まぶしいのかなぁ?息苦しいのかなぁ?』と?
ちょっと不謹慎だけれども、まぁ、ジェットコースターの順番待ちみたいな気分で目を閉じました。

何も感じないのです・・・。
ただ、目をつぶっているだけ・・・。
本当に何も変わらないし、何も感じない・・・・。
『つまんないなぁ・・・』と思いながら目を閉じていると、
どうも集まってる外野(常連客達)が騒がしいのです。
目を開けたい衝動をじっとこらえて終わるのを待ちました。

終わってからみんなに何を騒いでいたのかを聞いてみると、どうも状況は
僕の除霊を見ていた数人の常連客の内の一人が前に座っていたH君の肩を叩き
「ねぇ、ねぇH君・・・何とかしてよぉ・・」と言ったので、
H君が振り返ってみるとその友人は首を左右に振り子のように振っていたとの事なのです。
「お前、馬鹿な事やめろよ・・・」とH君が言うと
「ちがうよぉ・・・止まらないんだよ・・・」と、言い出し
みんなで力ずくで首を押さえても首の振り子運動は止まらず、それに気が付いた除霊師さんが除霊をやめ
それでやっと彼の首の振り子運動は止まったと言う事でした。

除霊師さんいわく
彼女の除霊のパワーが僕の中に入る事が出来ずに鏡のように跳ね返ってしまい、たまたまそばに居た一人に入ってしまったのだろうとの事でした。
彼女には「私の力ではあなたの中に入る事は出来ません・・・」と言われました。

その後で少しすると常連の近所の少年が店にやって来たのですが、彼は店の入り口でつまずいて転びそうになりました。
でも、店の入り口には何も無いのです。
彼はつまずきそうなものは何も無い床を見て不思議そうに首を傾げます。
彼は、きっと店の入り口で僕らにも彼にも見えない何かにぶつかったに違いありません。
それが何だったのかは判りませんが・・・

そして、店に入るなり僕の顔を見て
「ねぇ、僕知ってるんだ・・・」
「都築さんはここに居るけど、本当はここに居ないんだよね?」と言い出します。
「お前さぁ・・・・何を訳の判らない事言ってるの?」と聞き返すと
「へへっ、そうだね・・・」
「俺、今日ちょっと変だなぁ。じゃ、帰るね・・・」と
店に入って来て30秒もしないで出て行ってしまいました。
彼は、僕らがついさっきまで除霊会をしていたなんて全く知らずに入って来たのです。

「今のあいつ何だったんだよ・・・?」
「それにしても、気になる事を言って行ったなぁ・・・」とみんなで話している時に
突然、オーナーのR子さんが、大声で泣き出しました。
慌ててさっきの除霊師さんが何か唱えている間に、
今度は横浜から毎日の様に通ってくれていた渋谷の2輪メーカー秘書課のRちゃんが泣き出すのです。

取り合えず静まってから 「一体どうしたの?」と聞くと
「なんだか、この宇宙にたった一人になった様な、今まで感じた事の無い位の寂しさと孤独感と不安感がやって来て、いてもたっても居られなくなったの・・・・。」
と言うのですが
「でも、その寂しさや不安感は自分のものじゃないって事も判るのよ・・・」とも言います。
横浜のRチャンは、
「判るのよ、私どうして泣いたか判るのよ・・・帰る・・・」
とみんなが心配する中を帰ってしまいました。

実はその後色々と調べてみたら、その店は居抜きで元々有ったオートバイショップを買ったのですが、前のオーナーの時にいつも夜遅くに顔を出してくれていた新宿のクラブのウエイター(だったと思う)の常連さんが居たのだそうです。
ある夜も彼は仕事帰りに店に寄って、店からホンの100m位の所で大型ダンプにひき逃げされて亡くなったと言う事が判りました。
(山手通りです)
その現場は、時々僕らが夕ご飯を食べに行くファミレスのすぐそばでした。
道路には「死亡ひき逃げ現場。X月X日X時頃、ここで2輪車が大型ダンプにひき逃げされ死亡しました。心当たりの方は・・・」という看板がまだ立っているのです。

さらにこの話には、思い出すと心が痛む後日談があるのですが、 それは、この話に関連があるのかどうかは定かではないし、思い出すとちょっとつらいので

また今度にします。

 

 

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