第19話 火葬場で道路に飛び出してくる霊

僕は昔、父親の仕事の関係で北海道のR市に一年ほど住んでいた事があります。
それで、時々は札幌からR市の友達に会いに行ったりしていました。

ある時、R市の友達が数人集まって話している時に、幽霊の話になったんです。
その街の出口に火葬場があります。
そこで人が道路に飛び出して来ると言うのです。
ガードレール側から人が飛び出して来るので、驚いたドライバーがハンドルを切り損ねてガードレールをこすった跡がかなり多く残っている。

ある時、警察が酒酔い検問をしていたら、ほとんどの車が警察が見ているにもかかわらず、手前でセンターラインを一度超えから検問で停止するので、警察官が「黄色いラインは超えてはいけない事はわかっていますね?」 と、ドライバーに確認したらセンターラインを超えた車は皆「だって、そこに人がいて危ないじゃないですか?」と答えたのだそうだ。

そこで、実際に僕らの友人が、夜中に人を轢いたと言う。
目の前に人が飛び出して来て、フロントグリルに当たり弾き飛ばされて 自分の目の前から黒い人影が右側の山の切り出し付近まで飛ばされたのがちゃんと見えていたそうだ。
心なしか、轢いた瞬間には車体に衝撃も感じたと言う。

慌てて車から降りて、その人影が飛ばされた辺りを探してみたけれどまったく人影が見当たらない。
飛び出して来た側の崖のほうを探して見たけれどやはり人影は見えない。
そこまでは「ヤバイ!人身事故を起こしてしまった」と言う事で気が動転していたのだけど どうも自分が轢いた被害者が見当たらない事から、少し冷静になって、今度は自分の車へ戻ってみた。
事故の衝撃を感じたフロントグリルまわりには一切ダメージがない。
更に、懐中電灯を取り出してその辺りを照らしてみると、どこにも血の後がない。
勿論、自分の車のまわりにも、車体にも血痕もへこみも傷もない。

そこまで冷静になってやっと、「あっ、ここだよ・・・・!例の場所」という事に気が付き、そそくさと逃げ帰ってきたと言う話です。

昔、この話を母にしたら、何年か前に父が書類を忘れて、R市に居る部下に札幌まで届けさせた時にその人が書類を持って家に着くなり、「いやぁ、今日は肝を冷やしましたよ・・・てっきり手が後ろに回るかと思いました・・・」と言うのだそうです。
「街の出口の山道で人を轢いて、慌てて止まってあちこち探して見たけれど、轢いたはずの人が居ない」 「酒も飲んでいたし、あれが本当だったら手が後ろに回るところでしたねぇ・・・。でも、きっと酔ってたし、暗かったし、幻覚でも見たんでしょうね・・・」と彼は言ったのだそうです。

さて、これからが僕の話です。
そのR市に彼女と一緒に遊びに行った帰り、すっかり遅くなってしまい時間は既に夜の2時近くになっていました。
街の出口辺りで、さっきまで星空が見えていたのに、急にボンネットの先が見えない位の深い霧が出てきました。
おやおや・・・と思っていると、急に霧が晴れたのです。
まるで飛行機で雲の中から抜けたようでした。
星空さえ見えます。
でもその、急に霧が晴れた場所は、例の火葬場なのです。
「これは出る。絶対出る!」と確信した僕は、 ハンドルを切り損ねてガードレールにぶつかったりしないように、いつ何が出てきても良いように、徐行しながら前をしっかり見つめ、ハンドルをしっかり握り直し、いつでもブレーキをかけられる態勢で運転を続けました。

その区間は多分ホンの150〜200メーター位だったと思います。
何も起こらず、また目の前に霧の壁があり、その霧の壁に突入して行きました。
なぜか、「この霧の中では何も起きないだろう」という変な確証があり、そのまま運転を続けて行き、霧は徐々に晴れてしまいました。

「どうしてあそこ(霧が不自然に晴れた火葬場の所)で何も起きなかったんだろう?」 それがとても不思議で、その事を考えながら走っていると、後ろから救急車のサイレンがかすかに聞こえます。
夜中の田舎の一本道ですから、回りを走る車は全て見える筈ですが、他の車は一台も見当たりません。
「そんな馬鹿な・・・」と思い、もう一度救急車のサイレンを確認しようと窓を開けてみました。
今度は聞こえません。

そうすると彼女が「どうしたの?」と聞くのですが、こんな夜中にこんなところで怖がらせてはまずいと思い、 「いや、別に・・・」と言葉を濁すと、「救急車の音が聞こえたんでしょう?」と言います。
「えぇっ?お前にも聞こえたのか?」と聞き返すと、
「うん、でも空耳だよ」と異様なほど平然として答えます。
「どうして?」と聞くと
「だって、さっきあそこで人を轢いたでしょう?だから救急車の音が空耳で聞こえるのよ・・・」と やはり顔色も変えずに言います。

「俺が人を轢いたって?どこで?いつ?」と聞き返すと
「さっき、一瞬霧が晴れた場所があったでしょう?あそこで人が地面で仰向けに寝たまま手を振っていて、その上を走って轢いてきたでしょう・・・」と言います。
それも顔色も変えずに・・・。

「それは何かの影じゃなかったのか?」とかいろいろ聞いてみましたが、彼女いわく、 霧が晴れた途端、ちょうどセンターラインの辺りで仰向けに寝そべって手を振ってる人影が見え、『何かの影かな?』と思い右の山側を見たけれど何もそれらしいものは見当たらず、『どうしてこの人こんなところで寝 そべって手を振っているんだろう?』と思いながら、僕らの車が彼の上を通過するのを黙って見ていた。と言う。

どう考えても、彼女の行動や思考は正常ではない。
人を轢いたのに車にショックは無かった事や、その時に僕は何が出て来てもパニックにならないように前方を注視していた事、僕が人を轢いても彼女がそれを平気で見ていた事、それらの事を丁寧に説明しているうちに だんだん彼女は正気になって来て、数分前までの自分が異常だった事、地面で寝そべって手を振っていたのは、「何か」だった事。その後、二人同時に、存在しない救急車のサイレンを聞いた事。
それらの事がだんだんクリアーになって来て、とにかく2人とも真っ青になりながら、その後2時間ほど走って家まで帰りました。

ところが、これで終わらなかったのです・・・。

 

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