第20話 霊との同居(彼らも納得する)
19話の出来事があってから数日後、キッチンで洗い物をしていた彼女が振り向き、「なぁに?」と僕に声をかけるのです。
「何が?」と聞くと、「今、足に触って呼ばなかった?」と言うのです。
キッチンに立っていた彼女の太ももにぺたっと手で触れられた感覚がしたのだそうです。
2人しか居ないのですから、当然彼女は、僕が何か用が有って呼びかけたのだと思ったそうですが、僕は居間で新聞を読んでました。
今度は数日後に、友人の家に遊びに行っていて彼女が「また触られた・・・」と言います。
聞くと、椅子に腰掛け雑誌を読んでいた彼女の足元を友人の犬がじゃれ付いている(と思って)いたのですが、 犬があまりにもしつこくじゃれているので、『なでて欲しいのかな?』と思い雑誌から目を上げ足元を見ると犬は居ないのです。
部屋の中にはどこにも犬は居ませんでした。
ちょうど一階にコーヒーを入れに行っていた友人が戻ってきたので、その話をすると、彼の犬は階段を降りられないので、部屋の外の階段の降り口に座っていたそうです。
たまたま、飼い主が一階に降りたのでそれを追いたかったのかも知れませんし、動物特有の何かの勘で、その部屋に居たくなかったのかも知れません。
僕はその頃、大型トレーラーで日本中を走って長距離輸送をしていました。
(この前置きで長い18話が出てきた・・・苦笑) 彼女を乗せて走っていた頃、後ろのベッドで寝ていた彼女が突然起きあがり「ねぇ、その車追い越さない方が良いよ・・・」と寝ぼけ眼で言い出し、追い越し禁止区間でまさに追い越しをかけようと思っていた僕がミラーを確認すると知らない間にどこからともなく現れたパトカーがくっついていたりした事が良く有ったのですが、
ある日、ドライブインの駐車場で仮眠から目が覚めたら、彼女が「ねぇ、どうして4時に起こしたの?」と聞くのです。
僕は、「6時に起きるぞ・・」と言って、6時に目覚ましをかけて運転席で寝てましたから、4時に彼女を起こしたりはしてません。
でも、彼女は、4時に体を揺さぶられて起こされて、『もう出かけるのかな?』と思って起きて見たら、当の僕はまだねていたので、『ひどいなぁ・・・他人を起こしておいて自分はまた寝ちゃって・・・』と思っていた のだそうです。
(書いていて気がついたけど、この話14話に似てますね・・・。でも、14話の2年位前の話で、別な女性です)
その数日後、札幌へ戻る途中でした。
夜中にフェリーで函館に着いて国道5号線を40Kmほど走った所で、顔見知りの無線仲間のトラッカーが呼びかけてきました。(その当時ちょっとは全国に名の売れたトラッカーだったんですよ・・・笑)
『久しぶりだし、自分は今Uと言う給油所で一休みしてるので、時間が有るなら寄ってってよ』と言う事でした。 帰るだけで、時間の制約が無い僕はその給油所に寄る事にしました。 中に入ると彼はちょうどカップヌードルを食べている所でした(かわいそうな長距離トラッカーの食生活・・・笑)。 「どう?食べる?」と聞くので、「じゃ、ちょっと食べてこうかな・・」と、2人分のカップヌードルにお湯を注いでいると、その友人がレジでお金を払ってくれていたのですが、どうもスムーズにお金のやり取りが行われていないようでした。
それからソファーに座った3人は1時間ほど雑談に盛り上がり、「さて、そろそろ・・」とそれぞれでかいトラックに戻り、しばらく走って長万部の辺りのドライブイン街で、彼が「ちょっとコーラでも・・・」と無線で呼びかけます。
ドライブインの自動販売機の前に2台停め、その間に彼女はドライブインのトイレに行きます。 ちょうど僕の運転席の横の自動販売機で、僕の方を見上げながらコーラを買った彼は運転席に寄って来ながら、 「彼女は?」と聞きます。
「うん、今ちょっとトイレに行った・・・」と答えると、「あ、そう・・」と言いながら、運転席の窓ごしの僕へ下からコーラを3本手渡してくれます。
一瞬『どうして3本?』とは思いましたが、『予備かな?(苦笑)』と何も言わずに3本受け取りました。
それからしばらく走って、彼が無線の会話の途中で「もう一人の人もそろそろ疲れて来ただろうね・・」と言いました。 「なんだよ、それ・・・『もう一人の人』って他人行儀な・・・彼女の事は知ってるだろ?」と言うと、 「そうじゃないよ、彼女の事じゃなくって、もう一人・・・会社の同僚?」と言うのです。
「おい、おい、ちょっと待てよぉ・・・」
また、僕らの血の気が引いて行きます。彼も真剣です。
僕のトラックが大沼の給油所に到着した時に、『来た来た・・・』と見ていたら、給油所に僕らと一緒にベージュの建築現場の作業服の様な上下を着て、少し髪の薄くなった中年の小柄な男性が後ろから一緒に入ってきたと言うのです。
「カップヌードル食べる?」の時にも、当然3つだと思って3つ分のお金を払った彼に、2つ分しかお金を取らないレジとの間で少しやり取りがあったのだそうです。
『3人だから3つだろぉ』『いえ、お二人しか食べてませんよ・・・』
という会話だったそうですが・・・。彼には、その実在しない作業服の男性が全くの人間に見えた訳です。 彼が言うには、給油所のレジの女性にも見えていたはずだと言い張ります。
その後、僕らはソファに座ったままで、その作業服の男性は横に黙って立ったままで、会話にも参加しないし、僕らが席を詰めて座らせてあげようともしないし、ちょっと様子が変だなぁとは感じていたそうです。(僕らには見えていないのですから・・・)。
だからこそ、『この人、実はたまたま一緒に入ってきただけで、全然関係ない人かなぁ?』と思って、トラックに乗り込むのを確認したそうですが、ちゃんと僕らと一緒に僕のトラックに乗り込むのを確認して、
『おかしいなぁ・・・やっぱり知り合いだったのか・・・それにしてはよそよそしいなぁ・・』と思っていたそうです。
長万部のドライブインで、僕のトラックの真横の自動販売機からキャビンを見上げた時にも、さっきまで助手席にいた彼女の姿は見えなかったけれど(トイレに行ってました)、給油所で見かけた中年の作業服の男性は真中にしっかり座っていた。
「それをちゃんと確認してから、コーラを3本買ったんだよ。」と彼は言います。
給油所の中も蛍光灯で昼間の様に明るかったし、ドライブイン前の自動販売機の時もドライブインの明かりで僕のキャビンの中はハッキリ見えたと言いますから、彼の目には、疑う余地のないほど、完全に人間だった訳です。
どう考えても、あの夜、火葬場からついて来たとしか考えられません。
いろいろな友人知人にこの話をしたら、お払いをしてもらった方が良いとか、塩を玄関に・・・とか、皆、心配してくれて、いろいろなアドバイスをくれたのですが、僕と彼女の結論は、
「お払いとかお札とかで、無理やり追い払う(引き剥がすというイメージでしたが・・・)のって、なんだかかわいそうな気がする。」 「とりあえずこっちから見えなくてあっちからは24時間こっちを見てるなんて何だかちょっとずるいけど(風呂に入ってる時もこっちからは見えずにあっちからは見えてる訳だし・・・笑)、彼はただ寂しいだけなのかも 知れないし、とりあえず僕らに対しては何も悪意のわるさはしていないし、僕らと一緒に居たいなら、もうしばらくは居させてあげよう。でも、わるさをしたら、お払いとかお札とか、無理やりおっぱらっちまうからな・・・。 ただ、本当は俺達と一緒にここに居ても彼自身にとっては何も前進しないんだけどな・・・」
と、彼に話し掛ける訳でもなく、二人で話し合う訳でもなく、そんな感じで心が決まりました。僕も彼女も殆ど無宗教です。
なんとなく、自分達で決めたと言うより、彼も混じっていたような気もします。
僕が一方的に決めた事を彼女に宣告したのか、話さなくともお互いに結論は同じだったのか、彼女と真剣に話し合った記憶はあまりありません。
そして、その結論は自分達の取る手段と言うより、「彼を含めた今後の生活」と言う感じで、 彼に対しての言い渡しもあったように思えます。(宣言したり呼びかけたりした訳ではないですが・・・)
上手く言えないですが、自分自身に語りかけた様な感じです。
不思議な事に、その後、一度も彼を見かけなくなってしまいました。
彼女も触られなくなりました・・・(ちょっと女性に未練のある霊だった?笑) 「一緒に居たけりゃここに居ても良いけど、僕らとここに居てもあんたにとっては何も前進しないよ・・・」
呼びかけた訳でも無いし、宣言した訳でも無いし、なんとなく心にそう思っただけです。
でも、きっと自分でも僕の言う(心で思う?)事に納得したんでしょうね。 「居たけりゃ居ても良いけど・・・」ってのは、誰(どの霊)にでも、いつ(自分の精神状態)でも、素直に納得してもらえる対処法だとは決して思いません。
ケース・バイ・ケースで、調子に乗って来る(笑)霊も居るかも知れませんし、 自分自身の精神が弱っている時は俗に言う「憑かれる状態」になってしまう事も有るのかも知れません。
でも僕らは、彼(?)に対して、恐怖心も無かったし(最初は怖かったけど、『見えないけど一緒に居る』と言う事が確実になってからは普通になった)、諭すつもりも、哀れむつもりも、追い払うつもりも無かったし、彼(?)に直接話し掛けようとした事も無い・・・。
どちらかと言うと、『自分がこう思ってる、こう感じてる』というのを自分自身に語りかけていたような気がする。
なんだか、『見知らぬ人が旅の途中に勝手に僕らの家に居候を始めた』って感じだった。
だから、『僕らに迷惑をかけないなら良いでしょう・・・』って、 僕ら(僕も彼女も)はヒッピーやコミューンの経験をした同志だから、霊に対しても肉体を持つ人間と同じに扱えたのかも知れない。
最初の火葬場の時や、トラックに一緒に乗ってるのを知った時にあんなに怖かったのだけれど、 「見えないけど居る」と言う事が確実になってからは怖くなくなった。
そういうものなのかも知れない・・・。
