第29話 彼は誰だったのか?

これも20才前半の頃の話だったと思う・・・・

友人が何人かで一軒家を借りて住んでいた。

図のように、駐車場(と言うより、車が3台くらい停められるスペース)に車を停めて、幅1mほどの細い路地を通って玄関にたどり着く。
細い路地の脇は隣の空き地の柵があり(図の上の部分)
玄関の先と建物の間(図の右側)は隣の建物があってどこへも行けない。
居間の窓からは路地を通って玄関にやってくる人影が、シルエットというよりも「すりガラスを通して見える像」という状態でほぼハッキリ判別出来る。

居間には僕を含めて6〜7人の友人達が床に座り、もう1人来るはずの友人が到着するのを待ちながら雑談をしていた。

車のエンジンの音が聞こえて、ひと吹かししてエンジンを切った音がした。
彼の車はタコ足を付けたレビンで独特の音だから他の車とは容易に聞き分けられたので、みんな口々に
「コージが来たな・・・・・」と言ってそれまでの雑談は一時中止した。
車のドアが閉まる音がして、居間と隣の空き地の間の細い通路を帽子をかぶった人影が通り抜け(彼はいつもTOYOTAのキャップをかぶっていた)みんな彼が玄関から入って来るのを待っていた。

ところが、いくら待っても彼は入ってこない。
窓から見えるその通路からは玄関以外へはどこへも行けない。
「おい、なんか変だぞ・・・・まっすぐ2階に上がったのかなぁ?」
「誰か見て来いよ・・・・」
と口々に言い出し、1人が玄関と2階を見に行って来た。

「2階には誰も居ないし、第一玄関にコージのらしい靴は無いぜ・・・・」
「そう言えば、玄関(引き戸)が開いた音を誰か聞いたか?」
「まだ玄関から入ってきていないんじゃないか?」

「じゃ、今のはコージじゃ無いのかも知らんぞ・・・・・」
「じゃ誰だよ、今そこを通ったのは・・・・その通路は行き止まりだからここに用が有る奴しか通らないし・・・・・・」
そろそろみんな、何かおかしいと感じ始めて、そわそわし始めて来た。

「誰か、玄関の脇に隠れてる奴とか居ないか、外を見て来いよ・・・・」
「でもなぁ・・・・あの音はコージのレビンの音だったよなぁ・・・・」
「帽子かぶってたよなぁ・・・・今ここを通った奴・・・・」
玄関の外を見に行った奴が帰って来た
「外も路地も誰も居ないぜ・・・・ドラム缶の陰とか柵の向こうも見たけど・・・・」

実は、この時に僕はたまたま窓を背にして座っていた。
全く偶然で、僕だけが窓を背にしていた。
つまり、その路地を通った帽子をかぶった奴の影は居間に居た友人全員が見ているのにたまたま僕だけが見ていない。

変だなぁ・・・・と、なんだか吹っ切れない雰囲気の中、友人の1人(女性)が帰ると言うので、彼氏が送って行ってまた戻ってくると言う。

ガラガラっと、玄関の引き戸を開けた音がした後、居間に居た他の友人達が騒ぎ出した。
みんな顔を見合わせて、口々に何か言ってる・・・・
「おい、おい、どうしたんだよ?なんだよ?」
僕がきょとんとした顔をして聞くと

「今、3人通った・・・・・」と言う。
「アポロキャップをかぶった175cmくらいの男(彼氏)が通って、その後ろをカーリーヘアーの160cm位の女(彼女)が通って、そのすぐ後ろを帽子をかぶった

170cm位の奴(さっきの不明だった男?)がついて行った・・・・・」

その大騒ぎの時も僕は窓を背にしていて見ていない。

彼女を送って帰ってきた彼氏に聞くと、勿論彼ら2人には後からついて来た男なんて見えなかったし、車にも2人しか乗っていなかったとの事。
彼女を送っていく間に、特に思い当たるようなおかしな事も起きなかったけど、運転しながらちょっと気になったのは、自分の前には車は沢山居るのに、バックミラーには1台も車が写らない(後続車が1台も居なかった)というのがちょっと変だなぁとは思ったけど・・・・・・との事。

後日、その日来るはずだったコージに何か思い当たるフシは無いか聞いてみたけど、彼は事故も起こしていないし、その夜はたまたま急用が出来て来れなかっただけで、誰にも何も思い当たる事も異変も無かった。
それは、コージの生霊だったのか?
それとも、大勢集まって楽しそうだったから自分も仲間に入りたかったおとなしい霊だったのか?

今となってはわかるすべも無いし、わかっても仕方の無い事かも知れないとも思う。
ただ、僕にとっては「また、俺だけが見ていない・・・・・」というなんだか割り切れない気分だけが残った。

 

 

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