第32話 NYの友人

NYに東京時代からとても仲の良い友人が居て、僕は彼の所へ良く泊まりに行ってた事がある。
彼も「赤ん坊の時の記憶がある」とか、「3日位続けて寝る前のウトウトしている時に自分が体から抜け出しそうになった事がある」とかおかしな奴(笑)

彼はその頃、マンハッタンで日本人向けクラブのアシスタント・マネージャーをしていた。
来ていたお客さんのほとんどは駐在員等の接待客だったらしい・・・。
だから、日本と同じ様に女性のホステスさんがお客さんに同席する。

さて、僕がワシントン・スクエアのすぐ前の彼のアパートに1週間ほど遊びに行ってた時。
彼がいつものように夜遅くに帰って来た。
僕は半分ウトウトしていて、彼も疲れていたし会話もあまりせずにすぐに寝た。

確か3時だったと思う、彼が突然スタンドの電気を点けて
「何だったんでしょうね?今の・・・・・!」
と興奮しながらいきなり寝ぼけてる僕に話し掛けてきた。

「『何だったんでしょう?』って、何が?」
夜中にいきなり電気を点けられて、「何だったんでしょうね?」と言われてもただでさえ寝ぼけているのに訳がわからない(苦笑)
一瞬、彼が寝ぼけてるか夢でも見たのかな?と思ったけど、そんな事は今まで一度も無かったし、寝ぼけてるにしては彼の口調やまなざしはやけにはっきりしているし、はっきりしているどころか興奮してる。

「えっ?都築さんも見てたでしょ?今の黒い人・・・・」
やっと2人とも事態が飲み込め始めてきた。

彼は職場の人事的なトラブルの夢を見ていたらしい。
なんとなく夢から覚めたら、自分の脇に黒い人がしゃがみこんで自分のお腹の辺りを見下ろしている。
「えっ、今は夢から覚めたんだから、これは夢じゃない・・・・彼は一体何なんだろう?」
そう思って、彼と目が合うのが怖いので薄目を開けて寝たふりをしながら彼の様子をじっと見ていたらしい。

彼のアパートはベッドではなくて布団を床に敷いて寝ていた。
僕と彼の布団の間は80cm位空いてる。
2人とも床に布団を敷いて寝ている。
その、僕と彼の間にその「黒い人」はしゃがみこみ、彼のお腹の辺りを見下ろしていたという事らしい。

それで、寝たふりをしながら恐る恐る見ていたところ、その「黒い人」はそっと右手を出して彼のお腹に触れようとしたので、彼が
「あ、ヤバイヤバイ・・・・なんか怖いぞ・・・」と神経を集中したところヘソの下あたりがカーッと熱くなって来て、ちょうどそこに手を触れようとした「黒い人」が 「アチチッ・・・」と(声には出さないけれど)熱いものに触れた時のように手を振りながら腕を引っ込めた。

するとその「黒い人」はすーっと薄くなって消えて行き、ちょうどその時に隣の僕が「うーん・・・」と大きなため息(あるいは深呼吸)をした。というのがその時に彼から一気に聞いた話。

彼が「黒い人」と言うので、「黒人だったの?」と聞くと
「黒人と言うよりも、体全体が服を着てるとは思えないような真っ黒でシルエットとも違うし黒人以上に真っ黒な人間」とどうもうまく表現出来ないといった風に説明してくれた。
要するに、歌舞伎の黒子のようだったのだろうか・・・・?
(僕は見ていないからなんとも彼の表現をそのまま説明するしかない)

つまり、その時の彼はその「黒い人」が彼に触れようとして『怖い・・・』と思った時に隣に居る僕が何らかの手助けをしてくれて、それで彼のお腹がカーッと熱くなり、「黒い人」を無事に追い払った後で僕が「ふーっ・・・」と、ひと仕事終えたように大きなため息をついたので、てっきり彼は僕が起きていて「黒い人」を追い払ってくれたのは僕だと信じていたらしい。

僕にはその「黒い人」も自分がついた大きなため息もまったく記憶に無い。
ただ根拠も確信も無いけれど、彼の言うように「黒い人」を無意識の僕が追い払ったのではないか?(追い払う手伝いをしたのではないか?)という気持ちがどこかにはある。

 

この時もまた、僕は見ていない・・・・・

 

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