第38話 テレパシー
Okinawaに居た時、なじみの喫茶店でウエイトレスのアルバイトをしていた"サト"という子が、他の会社に就職してその喫茶店を辞めた。
街を歩いている時に、前方からその"サト"と同僚らしい若い女性が歩いて来るのが見えた。
久しぶりなので声をかけようと思ったけど、まだ声をかけるにはちょっと遠い距離でその2人は手前のビルの階段を上がって行ってしまった。
ちょっと大きな声を出して「サト〜ッ」とでも叫べばきっと聞こえるだろうけど、ちょっと気恥ずかしい・・・・。
走って行って階段の下から声をかける手もあるけど、走って行って声をかけるほどでもないしまして同僚の子が一緒だからちょっとそれも大げさ過ぎて・・・・・。
いろいろ躊躇しながら、「まっ、別に10年ぶりに見つけた友達でこの機会を逃したらもうずっと会えないという訳でもないし・・・」と、
とりあえず歩調も変えず、大きな声を出して呼び止める事もせずに、その2人が上っていったビルのそばまで来た。
「このビルだよなぁ・・・」とビルの入り口から2人が上っていった階段を見上げると、まだ2人は階段を上がってる最中で
僕が見上げた途端に、"サト"が「Junさ〜ん、久しぶりぃ・・・」と嬉しそうな声しながら振り向いた。
その日の夕方、いつものように喫茶店で食事をしていたら、昼間会った"サト"がやって来た。
彼女はカウンターに座ってる僕に、「今日、あんなところで会ったからびっくりしちゃった。仕事で出かけた帰りだったの」と言い
「でも、声をかけてくれなかったら気が付かなかったぁ・・・」という。
僕は声をかけていないのです。
"サト"に
「俺、声かけてないよ・・・・」と言うと
「『サトッ』って呼ばれたから振り向いたのよ・・・」
「でも、俺は声をかけてないぜ・・・」と言うと
「後ろから名前を呼ばれなきゃ、誰があんな階段の途中で振り向いたりすると思う?」と言う。
確かに、何か理由が無ければ小さな雑居ビルの狭い階段を上ってる最中に後ろを振り向いたりはしない。
と、言うことは"サト"には後ろから誰かが彼女の名前を呼んだ声が聞こえたのだろう。
もし、本当に誰かが彼女に声をかけたのだったら、そこに居た僕にも聞こえていたはず。
僕の耳には彼女を呼んだ"誰か"の声は聞こえなかった。
多分、その声を聞いたのは彼女だけだったのだろうと思う。
その子は単なる仲の良い喫茶店の顔見知り。
それにそこで会わなきゃもう一生会えない訳でもなく、命にかかわる一大事だった訳でもない。
本当に、普通の日常生活の一コマ。
そんな事って結構誰もが経験してる事だと思う。
[頭の中で歌を歌ったら、隣に居た人が同時に同じ歌を声に出して歌い出した。]
というのを良く聞く。
不思議な話って、家族や親戚、仲の良い友人が亡くなる時に挨拶に来るとか、いわく付きの土地で夜な夜な声がするとか
そういう大げさな事じゃなくて、まったく普通の生活の中で普通に何気なく起きていたりするんだと思う。
そして、重大な時じゃなくて、不思議な事が日常の一コマで普通に起きている事の方が、
「人間って単に肉体にスーパーコンピューター(脳)が乗っかってるだけの生き物じゃないんだ・・・・」って事を実感する機会だと思う。
怖い話を期待している人には、この38話はまた期待外れだけど・・・・・・そんな事を考えてる今日でした。
