第40話 個人差
札幌に住んで居た頃の話です。
友人のマンションに遊びに行ってました。
友人と、友人の彼女と3人で夕食の後、なんとなく怪談になり
いくつか「昔さぁ、こんな事があって・・・・」という話をしていたのですが
どうも彼女の顔がロウ人形のように無表情になっていくのを感じていました。
それで、「そろそろやめようか・・・・なんだか変だぜ・・・・」と言うと
「うんなんだか私も、ここに居る私は私だけど私じゃないような気がする・・・・」と、
ロウ人形のような無表情な顔で言うのです。
『なんか変だなぁ・・・・・』と思っていると、リビングの真中に座っていた僕の友人は頭を抱えだして
「うわぁ・・・・参った・・・・頭、痛い・・・・」と言い出すのです。
「何か鉄のワッカで頭をギューッと締め付けられてるみたいにすげぇ痛い・・・・・参った・・・」
と、居間で頭を抱えて転げ回っています。
そのうちに彼が
「なぁ、純・・・・俺、泣いてるか?」と聞くのです。
『変な事聞く奴だなぁ・・・・』と思いながら良く見ると確かに彼は涙を流しているのです。
それで、
「うーん・・・確かに涙は出てるけど、泣いてる顔には見えんけどぉ・・・・・・」
「まさか、痛くて泣いてるとは思えないし・・・・」
(彼は学生時代にボクシングの大学ランキングで8位まで行った元ボクサーです)
と言うと彼も
「俺も何で涙が出てくるのかわからないんだ・・・・・」
「おい、おい・・・・ちょっと待てよぉ、二人とも・・・・・」
と、いきなりわけがわからない状態になってしまい、この場をどうしたものか考えていると、彼が
「おい純、今日は泊まって行けよ・・・・」
「今日、純を一人で帰すとなんだか知らんけど、俺が後ですごく後悔する気がして仕方ないんだ・・・」
と言い出しました。
「なんでだよ・・・・?帰ると俺が何か困る事になるのか?」
「うーん、わからないけど、とにかく純をここから帰すと俺が後ですごく後悔するような気がして仕方ない。何でだろう?」
「参ったなぁ・・・・じゃ、リビングに泊まっていくよ」と言うと、
その友人と彼女はぼくのためのふとんをリビングに用意してくれて、
自分達は隣の寝室のベッドへ行ったのですが、彼らの部屋の電気はまだ点いたままです。
僕はちょっと疲れてたので電気を消して布団に入るとすぐに寝ようとしたのですが、隣の部屋から何やら話し声が聞こえるのがちょっと気になりました。
「ねっ?右のカドにも居るでしょ?」
「天井は?」
「大きな目の横に、横顔・・・・」
「本棚の横に顔だけ見えるけど・・・・」
「私には体までちゃんと見えるよ」
しばらく聞いていたのですが、どう考えても普通の会話には聞こえません。
男女が一緒に寝てる寝室ですが、この会話の内容を聞くと別に僕が入っていっても問題はなさそうだし
何よりも会話が気になって仕方ないので
「お前ら、何を話してるの?」と声をかけながらとなりの寝室に入っていきました。
部屋の明かりは点いたままで、2人はベッドに入ったままで背を起こして座っていました。
彼が「あのさぁ・・・部屋の中にいろんな人がいっぱい居るんだよ・・・・」と言い
彼女は「でも、私には体まで全部見えても、章さんには顔しか見えなかったり・・・」
「俺には天井にでっかい目だけが2つ見えるんだけど・・・・」
「私には、ちゃんと顔まで見えるのよ」
と、言ってる時に
「キャァ!」
「ウワァッ!」
と、ベッドのヘッドボードを背にして寄り添って座っていた2人が左右に飛びのくように体を動かしました。
「おいおい、今度は何だよ・・・・・」と青い顔で僕が聞くと
「今、私と章さんの間から腕が出てきた・・・・・」と彼女は言い
「俺は何も見えなかったけど、ちょうど2人の間で何かが動いたのを感じた・・・・」と彼は言います。
結局僕らは明るくなるまで、音楽を聴いたり、世間話をしたりして起きていたのですが
どうも、同じものが同じところに存在しても、個人差で目だけしか見えない人とちゃんと顔まで見える人
ある人には顔しか見えないけど、別の人には同じところに体までちゃんと見えたりするのですね。
ちなみに僕にはまったく見えませんでした。
2人の間に出てきた腕も、彼女にはちゃんと腕まで見えたので「一瞬驚いたけど、章さんが腕を動かしたのだと思った」と言うし
彼は、「俺には何も見えなかったけど何かが動いたのだけは感じた・・・・・」と言います。
(もちろん、このときの腕は彼の腕では有りません。僕はその2人を見ていたのだから・・・・そして僕には何も見えなかった)
昔の日本人の幽霊のイメージは“足がない”のが定番でしたが、これはきっと見る人が見ればちゃんと足まで見えるんでしょうね。
あるいは、ある人が足の無い幽霊を見ている同じ時に同じ場所に居ても、目しか、顔しか見えない人も居るのだと思います。
