第54話 人が死ぬ瞬間を見ない偶然

僕は人が死ぬのを見た事が有りません。
勿論、それだけなら全然不思議な事にはならないのですが、死んだ人は何度か見た事が有るのです。

@
僕は大型トレーラーに乗って日本中を走っていた頃があります。
ある夜、確か富良野か帯広へ朝一番で到着しなくてはいけなくて夜通し走っていました。
映像としては記憶に残っているのですが、あれがどこの町だったか地名は思い出せません。
郊外を抜きつ抜かれつ、前方に見知らぬ大型トラックが走っていてある町に入りました。
信号が多くなり、その大型トラックは誰も居ない町を僕よりも信号1本分先に走っていました。
そのトラックが僕より一本先の信号で左折して、信号が青になって僕もそのトラックが左折した信号を左折しました。

途端に、目の前にさっきの大型トラックが道の真中で止まっているのです。
どうも様子がおかしいと思って、降りて見に行くと
その大型トラックの真正面に乗用車が正面から刺さっていました。
恐らく居眠り運転だろうと思います。
大型トラックの運転手に聞くと、
「いきなりセンターラインを越えて目の前に突っ込んで来た。避ける暇も何もあったもんじゃねぇ・・・」
との事です。
確かミツビシのギャランだったと思うけど、フロント部分は完全につぶれて、フロントガラスから後ろしか残っていませんでした。
詳しい描写は避けますが、乗用車のドライバーは完全に即死状態です。

もしかしたら郊外で抜きつ抜かれつを繰り返していたその大型トラックと僕の大型トレーラーは順番が逆になっていたかも知れない。
それだけではなく、さっきまでほとんど並んで走っていた彼と信号1本分の差が開いて、ちょうど彼が左折して視界から見えなくなったホンの一瞬の出来事だった。

A
別な時、町田の青果市場に向かって16号線からちょっと狭い道に分かれた。
馬鹿でかい大型トレーラーだから、神田とか築地とか大阪南部市場とか、大きな市場しかあまり行かない僕は、町田の青果市場なんて行くのは初めて。
渋滞でちょっと時間が遅れていて、少し焦っていた。
馬鹿でかい大型トレーラーを狭い日本の道で走らせているから、時間に遅れている時こそちゃんと止まって地図を見るなり電話で確認するなりしないと余計に遅れてしまうという事をいやという程経験してる。
乗用車や小型・中型トラックと違って、知らない道を走っていると右折も左折も出来なくなって立ち往生というのは充分に可能性がある。
内輪差が大きいので右左折出来ない交差点が多い。しかも一本物のトラックと違ってトレーラーは連結車なので、数10m、数100mを真っ直ぐバックするというのは至難の業。

とにかく・・・・。
迷い込んでニッチもサッチも行かなくなる前にと、16号線から外れてすぐに電話ボックスを見つけてちょっと遅れてる旨と道順を尋ねるのに電話をしていた。
電話ボックスで電話をしてると、大型ダンプが僕のトレーラーの脇を通り抜ける時にわざわざ停まって電話ボックスの中の僕に何か言いたそうな顔をして覗き込んで行った。
「なんだよ・・・・邪魔にならないところで停まって電話してるだろう?・・・・」
と、何か文句でもあるのかなぁ?とちょっと怪訝に思いながら電話を終わった僕は運転席に戻り、同じ道を進み始めた。
すると、目の前で渋滞。
さっき電話をしてる僕をわざわざ停まって覗き込んで行った大型トラックがセンターラインをまたいで斜めに止まっていて、対向車線の路肩に2tトラックがフェンダーをつぶして斜めに停まっている。
「なんだよ、事故かよ・・・・ただでさえ遅れているのに・・・・」
状況を見ようと、車を降りて先頭の大型ダンプの方へ歩いて行った。
すると、止まってる大型ダンプの脇の電信柱の脇に靴が一足揃って置いてあった。
回りはなんとも言えない異様な臭い・・・・・・。

センターラインをまたいで斜めに止まっている大型ダンプの脇のセンターライン上に首の無い女性が横たわっていた。
道路の脇は精神病院で、その病院の女性の入院患者が電信柱の陰から飛び込み自殺だったらしい。
ちゃんと靴も脱ぎ、遺書も有ったらしい。
突然電信柱の陰から人が飛び出してきたので、ハンドルを切って対向車の2tトラックにぶつかったらしいけれどこの2tトラックに乗っていた人たちは無事。
「ハンドルを切ったけど避けきれるもんじゃない・・・・・」と後輪で頭を轢いた大型ダンプの運転手が言っていた。
あの短いダンプが避けきれないのだから3倍も長い僕のトレーラーじゃどうする事も出来なかっただろうと思った。

それよりも何よりも、僕が電話ボックスで電話をしてる時にわざわざ止まって何か言いたそうに僕の顔を覗き込んで行ったのは、
「俺が身代わりになってやるからよ・・・・」とでも言いたかったのじゃないかと思うと、とてもとても不思議な感じがした。

身投げをした女性は、大きな車であれば誰でも良かった訳で、僕があそこで電話をしていなければ大型ダンプよりも前に僕が彼女の横に到着するわけで、そうしたら当然彼女は僕の大型トレーラーに向かって身を投じたはず・・・・・。

僕の代わりに人を轢いてしまった大型ダンプが、電話している僕の脇でわざわざ大きなダンプを止めて(既に僕の大型トレーラが駐車してるから、道を全面的にふさいでしまって)電話してる見知らぬ僕の顔を覗き込んで行ったというのもとても不思議な事だと思った。

自分の過失では無いにしろ、人を殺してしまった運転手にあまり関係無い質問はしたくなかったんだけど、
「よぉ・・・さっき俺が電話してる時に何か話し掛けたそうだったよなぁ・・・・」と尋ねると
「なんとなく知り合いかと思ってな・・・」と言っていた。
きっと彼にもよくわからない理由で、僕の顔を覗き込んで行ったんだろうと思った。
僕の代わりなってくれたからだろうか・・・・・

B
ある真冬の北海道で、僕は乗用車に乗って父親の仕事先の留萌市という町に向かって走っていた。
雪がチラチラ降っていて、決して視界は良くは無かったけれど結構飛ばしていた。
僕の前に普通のセダンが走っていた。
どう考えても僕よりも遅いだろうと思い、どこで追い越そうかと思っていたけれど、もう少し行くと直線の広い道になるのでその辺りで追い越そうと思って無理せずについて走っていた。

その直線の広い道に入る前に、近道のようにわき道を2回左折する場所がある。
雪道で狭いわき道へ左折するので当然スピードはかなり落とす。
減速して左折して、わだちを避けながら次の角を左折した。
途端に、目の前の国道でさっきまで目の前を走っていたセダンが道の真ん中で湯気を上げていた。
そのセダンから数10m離れた国道上に大型タンクローリーが一台止まっていた。

どうやらそのセダンはタンクローリーのすぐ前を走っていた大型ダンプが巻き上げる雪煙でタンクローリーが来ているのが見えなかったらしい。
大型ダンプが通り過ぎたところで、雪煙に隠れて見えない大型タンクローリーが来ているのに左折をして正面から当たったらしい。

また、僕の視界から消えた一瞬に人が死んだ。
まだ他にも似たような経験が有ったような気がするけど、いま覚えているのはこれだけ・・・・。
[僕が目を離した一瞬に人が死ぬ]というよりも、どちらかと言うと
[人が死ぬ瞬間に、一瞬だけ僕はたまたま見えない位置に居る]という気がして仕方が無い。

これって、自分では一度も霊を見た事が無い。というのと関連があるのだろうか?
自分では何かの関係が有るような気がして仕方が無いのだけど・・・・・・

 

目次へ戻る(新しいウインドウ)
目次へ戻る(新しいウインドウ)